株式と金利は、一つの矢印では動かない
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この記事でわかること
- 金利は、お金を借りたり預けたりするときの値段である
- 株価へは、借入コスト、他の選択肢、将来利益の現在価値、という経路で届く
- 上がった理由が景気の強さなのか、物価を抑えるためなのかで、株の反応は変わりうる
「金利が上がると、株は下がる」。よく見る一文です。半分は、仕組みの説明として役に立ちます。半分は、単純すぎます。同じ「金利が上がった」でも、なぜ上がったかで、株の反応は違ってきました。この記事は、怖がらせるための金利の話ではありません。経路を知って、見出しを一段ゆっくり読むための記事です。
いまの金利が何パーセントか、この先どちらへ動くか、は書きません。その数字は週単位で変わり、出典と時点がないまま置くと、読んだ翌月には別の話になるからです。
金利は、お金を使うときの値段
金利は、お金を借りるコストであり、お金を預けるときに受け取る対価でもあります。銀行から事業資金を借りる会社、住宅ローンを返す家計、国債を買う人。立場は違っても、同じ「お金の使用料」を見ています。
低いときは、借りる側の負担が軽くなり、会社は設備や人に使いやすくなります。家計や企業の支出が活発になり、景気が広がる方向に働きやすい、と説明されます。高いときは、借りる負担が重くなり、支出を抑える方向に働きやすい、と説明されます。
中央銀行が政策金利を動かすのは、この使用料を通じて、物価と景気の熱を調整するためです。アクセルとブレーキ、という比喩が近いです。アクセルを踏んでいるからといって、車が必ず前に進むわけではないのと同じで、金利も、それ一つで株価の方向を決めません。経済には、物価、企業の利益、海外の出来事、投資家の期待が同時にあります。
株価へ届く経路は、一つではない
金利の変化が株式に届くとき、勉強会では三つの経路に分けて見ます。
一つ目は、会社が借りるコストです。金利が上がると、利息の負担が増え、設備投資や事業の拡大がしにくくなることがあります。利益が圧迫されれば、株を評価する材料が細ります。すべての会社が同じだけ借りているわけではないので、影響の大きさは会社で違います。
二つ目は、株式以外の選択肢です。金利が上がると、債券や預金で受け取れる対価も上がりやすくなります。リスクを取って株式を持たなくても、利息が見込める、と感じる人が増えると、株式からお金が移動しやすくなります。逆に、金利がごく低いときは、利息が物足りず、株式へ向かいやすい、という説明がされます。これは、みんなが同時に動く、という話ではありません。比較の基準が変わる、という話です。
三つ目は、将来の利益を、いまの価値に直すときの割引です。株式の評価では、この先に生まれる利益を、いまの金利などで割り引いて見ることがあります。割引に使う率が高いほど、同じ将来の利益でも、いまの評価は低くなりやすい。この経路は、利益がずっと先に寄っている会社ほど、影響が目立ちやすい、と説明されます。
三つの経路は、同時に、同じ強さで働くとは限りません。利益の伸びが、借入コストの増加を上回ることもあれば、割引の影響だけが意識されることもあります。
成長への期待が厚いほど、割引は目立ちやすい
すべての株が、金利に同じ反応をするわけではありません。いまの利益より、「この先どれだけ伸びるか」で値段が付いている会社は、割引の影響を受けやすい、と説明されます。研究や開発に時間がかかり、利益が先に寄っている事業も似ています。
これは、その会社が悪い、という話ではありません。評価の置き場所が、将来に寄っている、という話です。金利が低いときは、その将来が高く評価され、株価が伸びやすい。金利が高いときは、同じ将来でも評価が控えめになりやすい。一方、いまの利益や配当が評価の中心にある会社は、反応の出方が違うことがあります。
セクターの名前を暗記する必要はありません。見る問いは、「この値段は、近い利益を見ているのか、遠い成長を見ているのか」です。指数全体が上がっていても、中では、金利の負担を受けている会社と、利益の伸びでそれを上回っている会社が混ざっていることがあります。指数の一点だけを見て、すべての株が同じだと扱うと、この差が消えます。
金利が上がれば株が下がる、とは限らない
一般論としての「金利上昇は株に逆風」は、上の三経路があるからです。実際の市場は、その逆風だけを受けているわけではありません。
景気が拡大し、会社の利益が伸びているために金利が上がる場合があります。需要が強く、お金を借りたい人が増え、金利が上がる。このときは、金利の負担より、利益の伸びが勝って、株が上がることもあります。
物価を抑えるために、中央銀行が金利を上げる場合があります。景気が熱を持ちすぎ、物価が上がり、ブレーキを踏む。このときは、支出が抑えられ、会社の利益への期待が細り、株が下がりやすくなります。
同じ「上がった」でも、理由が違います。見出しが「金利上昇」までしか言っていないときは、その次の問いが本体です。景気が強いから上がったのか。物価を冷やすために上げたのか。会社の利益は、その負担に耐えているのか。
いまの市場がどちら側か、をこの記事で断定しません。ある時点で金利が高くても、株価指数が高値圏にあることはありました。そのとき指数を押し上げていたのが一部の大きな会社で、それ以外は金利の負担を受けていた、という整理がされることもあります。指数全体と、その中のばらつきは、別々に見ます。
局面が違えば、反応も違った
過去のいくつかの局面を、方向の丸暗記ではなく、公式の声明と議事要旨が述べている範囲で並べます。株価の騰落率は出しません。
2008年12月時点、FOMCは政策金利の誘導目標を、0から4分の1パーセントの範囲に引き下げました。声明は、金融市場の緊張が続き、支出や生産が減少したことに触れています。同じ会合の議事要旨は、株価が低下し、幅広い株価指数が差引で下落したことに触れています。金利を下げたから株が上がる、とは読まなかった局面です。
2013年6月時点、FOMCは資産の購入を続け、そのペースは増やすことも減らすこともあり得る、と述べました。政策金利の誘導目標は、0から4分の1パーセントの範囲のままです。同じ時期の議事要旨は、会合と会合のあいだに市場が大きく揺れ、より長期の金利が上昇したことに触れています。政策金利を上げる前でも、購入ペースの議論と市場の反応は、別々に記録されています。
2019年7月時点、FOMCは政策金利の誘導目標を、2から2と4分の1パーセントの範囲へ引き下げました。声明が挙げた理由は、世界経済の動きが景気の見通しに与える影響と、落ち着いた物価です。この声明は、利下げのあと株が戻った、とは述べていません。
2022年3月時点、FOMCは政策金利の誘導目標を、4分の1から2分の1パーセントの範囲へ引き上げ、今後も引き上げが適切だとの見通しを示しました。声明は、物価の上昇が続いていることにも触れています。同じ会合の議事要旨は、前回の会合からこの会合までのあいだに、米国の株価指数が差引で小幅に下落した、と記しています。一年を通じた調整の大きさは、この文書だけでは読み取れません。
四つを並べると、利下げイコール株高、利上げイコール株安、とは読めません。残るのは、金利の背後にある景気、物価、企業の利益、政策の意図です。各時点の原文は、末尾の出典に置いています。
見る順番
株価は、金利だけでは動いていません。見る順番を固定すると、見出しに振り回されにくくなります。
まず、なぜ金利が動いたのか。景気の強さなのか、物価を抑えるためなのか。次に、会社の利益はその動きに耐えているのか、伸びているのか。最後に、市場がどの期待を値段に織り込んでいるのか。一部の会社だけが指数を持ち上げていないか。
この順番は、明日の株価を当てる手順ではありません。当てにいくほど、ニュースの回数だけ判断が増えます。長期・積立・分散で書いたように、当たらないことを前提に、使う時期と値動きの違いを先に分けるほうが、家計の設計には残ります。金利の話は、その設計を壊す材料ではなく、設計の外で何が起きているかを読む材料です。
使い始める時期が近い人は、金利の上下より先に、下落のときに売らずにいられるかを見てください。その問いは出口戦略に書いています。
出典
- Board of Governors of the Federal Reserve System, FOMC statement, December 16, 2008 (2008年12月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, Minutes of the Federal Open Market Committee, December 15-16, 2008 (2008年12月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, FOMC statement, June 19, 2013 (2013年6月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, Minutes of the Federal Open Market Committee, June 18-19, 2013 (2013年6月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, FOMC statement, July 31, 2019 (2019年7月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, FOMC statement, March 16, 2022 (2022年3月時点)
- Board of Governors of the Federal Reserve System, Minutes of the Federal Open Market Committee, March 15-16, 2022 (2022年3月時点)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や推奨を目的としたものではありません。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。